2020年1月、大人気テレビシリーズの映画化作品がついに公開されました。
劇場版『ハイスクール・フリート』です。
誰もが期待していた「はいふり」要素と誰もが予想していなかった熱い「ハイスクール・フリート」要素が合わさった完全無欠の映画でしたね。
Free Turnとかいう名曲
その裏で、今月もうひとつテレビシリーズの映画化作品がこっそり公開されていました。
『ダウントン・アビー』は2010〜2015年に放送された英国の大人気ドラマです。
大好きなシリーズだったので映画化されると聞いてずっと楽しみにしていました。
好きな作品が同時に映画になって嬉しい。
基本的にはテレビ版の視聴者に向けた作品ではありますが、見ていない人でも十分楽しめる作品だと思うので、 興味のある方はぜひチェックしていただきたいです。
はいふりはアニメ本編を見てから見てください。
※以下、若干のネタバレあり
国王がやってきてピンチ!
1927年、いつもどおりの日々を過ごすクローリー家に英国王室から一通の手紙が届けられます。
なんと国王夫妻がダウントン・アビーへやってくるというのだからさあ大変。
国王を狙う謎のテロリスト、王女の家庭問題、再燃する相続争い、鼻持ちならない上級奉仕官、突然の大雨、全然帰ってこないヘンリー、次々消える銀食器、故障するボイラー、なかなか育休が取れないヘクサム侯爵。
案の定立て続けに見舞われるトラブルを乗り越えてクローリー家は国王訪問を成功させることができるのか?
つい最近もヘンリー王子が王室離脱を発表するなど話題に事欠かない英国王室ですが、 今も昔もそれは同じ。
クローリー家の人々のみならず、ロイヤルファミリーがやってくると知った使用人たちも大騒ぎをはじめます。
以下、個人的な注目ポイントです。
相続問題ふたたび
国王の妻・メアリー王妃の侍女としてダウントンへやってきたレディ・バグショー。彼女の登場によって、一波乱がもたらされることに。
かつて遺産相続をめぐって揉めに揉めたクローリー家ですが、じつはもうひとつ別の相続問題が存在していたことが判明します。
(現グランサム伯爵のロバートには息子がいないため、死後の財産はすべて法定相続人のマシューが相続することになっていた)
バグショーはロバートの母ヴァイオレットの従姉妹で、クローリー家とは親戚関係にありました。
彼女には子どもがいないため、死後の財産はもっとも近い親戚であるロバートが相続することになります。
ところがバグショーは相続人として自身のメイドであるルーシーを指名。これがヴァイオレットには面白くありません。
あの手この手でバグショーをやり込めようとするヴァイオレットですが、まるでうまくいかず。
これまでヴァイオレットと真正面からやりあえるのはイザベルとマーサ(コーラの母)ぐらいだったので、久々にこういう対決を見られてなんだか懐かしい気分になりました。
結果的に、バグショーの隠していたある秘密が発覚したことで事態は収拾します。
最初に真相に気付いたのがイザベルっていうのが良かったな。
息子を亡くした彼女だからこそいち早く気付けたのかと想像するとちょっと切ない。
事実を知って理解を示すヴァイオレットの姿にも成長を感じられてよかったです。
そんなバグショーを演じるのは『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』でアンブリッジを演じたイメルダ・スタウントン。ヴァイオレットを演じるマギー・スミスとはホグワーツ以来の再戦となります。
最近になってカーソン役のジム・カーターと夫婦だと知ってびっくりした。
王室使用人vsダウントン使用人
∞∞#映画ダウントンアビーの見所∞∞
— 映画 『ダウントン・アビー』公式 (@DowntonAbbey_JP) 2020年1月14日
ロイヤル・ファミリーの訪問は、使用人たちにも大きな影響を与えます🍽️
居丈高に命令ばかりする王宮の侍従たちに対し、対抗意識を燃やす彼らの一致団結した活躍ぶりは、実に痛快でございます。#ダウントンアビー pic.twitter.com/pGvzTtb11m
上階で貴族たちの戦いがあるように、階下では使用人たちの戦いが繰り広げられます。
国王夫妻の接待ができるチャンスとあって張り切るダウントンの使用人たちですが、ロンドンから派遣されてきた高慢な王室使用人たちに仕事を奪われてしまいます。
挙句クローリー家を「田舎貴族」呼ばわりする始末。
フォードをあしらうフェラーリさながら、ダウントンの使用人を見くびっています。(余談だけど、ル・マン24時間レースが始まったのは『ダウントン・アビー』の時代と同時期の1923年らしい)
これを侮辱と受け取ったダウントンの使用人たちはクーデターを画策します。
使用人同士のプライドを賭けた対決が、本作の見どころのひとつ。
モールズリーさんの空回りが今までで一番輝いてて面白かったです。
ダウントンの仲間は、家族だから
∞∞#映画ダウントンアビーの見所∞∞
— 映画 『ダウントン・アビー』公式 (@DowntonAbbey_JP) 2020年1月16日
運転手からクローリー家の仲間入りをしたトム・ブランソン様は、#ダウントンアビー でも独特の立ち位置におります⚙️
そんなブランソン様が大きな転機を迎える事も、劇場版の見所でございます。 pic.twitter.com/uicWvLkwJ6
個人的に今作で一番興味深かったのがトム・ブランソンを巡るストーリー。
アイルランド出身のトムはもともと熱心な共和主義者であり、貴族や王室へ反感を抱いていました。*1
その後クローリー家の末娘シビルと駆け落ちし、紆余曲折あって家族の一員に。
一度はダウントン・アビーを離れてアメリカへ渡りましたが、最終的には一家のもとへ戻ってきました。
しかしながら政治思想が変わったわけではなく、国王夫妻の訪問に際して周囲からも「なにかやらかすんじゃないか?」と心配の声が上がります。
そんな彼に目をつけたのが過激派のアイルランド人・チェトウッド少佐。国王へのテロ攻撃を企む少佐は、トムを仲間に引き込めるのではないかと考え接触してきます。
少佐に「アイルランドと英国王室のどっちを支持しているんだ?」と尋ねられたトムは、「グランサム卿を支持する」とうまくかわしてみせます。
これこそが彼のスタンスを端的に示す言葉であると感じました。
共和主義者でありながら貴族社会で暮らすトムのアイデンティティーを問うエピソードはこれまでも何度かありました。今回の映画では、その問いにひとつの決着をつけていたのがよかったです。
メアリー王女からクローリー家のことをどう思っているのか問われたときのトムの言葉にグッときてしまいました。
ドラマを見始めたころトムはあんまり好きじゃなかったのに、いつの間にか一番好きなキャラクターのひとりになっていた。『ダウントン・アビー』はこんなことがしょっちゅうだから面白い。
やっぱりツイてないトーマス
無関係な画像
ドラマ本編の終盤はひたすら不運な目に遭い続けていたトーマスですが、今作での扱いもちょっとかわいそうでした。
かつてダウントンきっての問題児だったトーマス。しかし彼の屈折した性格は、自身が同性愛者であることへの葛藤から生じていたものでした。
同性愛が犯罪とされていた時代のなかで、最後には困難を乗り越えて執事に就任します。
ところが今作では国王夫妻の訪問を取り仕切るには能力不足と判断され、前任の執事カーソンと交代する形で体良く追い払われてしまいます。
たどり着いた酒場ではじめて同志たちと出会い意気投合するものの、今度は警察に逮捕されてしまう羽目に。
そんな彼ですが、果たしてラストでは報われるのか。報われてほしい。
「いつか受け入れられる時代が来るのかな?」という言葉が印象的でした。当時の時代背景を思えばなおのこと重い。
ダウントンに生き、ダウントンを守り、ダウントンを往く
クローリー家の長女メアリーは、この先もダウントンでの生活を維持していくことができるのか思い悩み、侍女であり友人でもあるアンナに相談します。
ずばり、我々はダウントンを去るべきかどうか。
その問いに対してアンナは答えます。
「ダウントン・アビーは社会の中心です」
貴族の責務は、そこに暮らす人々の生活を守ること。
「ノブレス・オブリージュ」という言葉がありますが、貴族は血を流してでも領地を死守し、民を保護しなくてはなりません。
悠々自適に見えて、彼らの生活は必ずしも楽ではない。
最終的に、メアリーはある決断を下します。
終盤、変化していく貴族の生活について語るメアリーとヴァイオレットの会話がすごくよかった。
この作品のテーマはつねに「変化」にあります。
時代の変化、思想の変化、女性の立場の変化、貴族社会の変化、それに翻弄される者と適応する者の在り方を描いてきました。
映画のラスト、「クローリー家とダウントン・アビーは100年後も存在し続けているだろう」と話すカーソンに対して、ヒューズさんは「さあ、それはどうかしら」と答えます。
今作の舞台は1927年。2年後には世界大恐慌、その後には第二次世界大戦が待ち受けています。
貴族はいずれ時代の波に淘汰され、多くのものを失っていく運命にあります。
その一方で、クローリー家はこれまで何世代もの間あらゆる危機を乗り越えてきました。たとえ貴族としての在り方が変わったとしても、変化を受け入れながら強く生き延びていくことでしょう。
百年後も残り続けるダウントン・アビーのように。
ところで百年目の歌って結局なに?
感想
良い意味で映画らしくなく、本当にドラマシリーズの延長という感じでした。
もちろん映画ならではのスケールの大きさもあって楽しかったです。屋敷を空撮で見たのって初めてだったかも。
他方、やっぱりドラマと違って尺が限られているので全体的に急ぎすぎてる印象はありました。
デイジーとアンディの結婚話とか、イーディスの妊娠問題とか、出番を与えるためにやや無理やり詰め込んだ感は否めない。
でも限られた尺のなかで全員に出番を与えようとしていたのは素直にすごい。
昔からのファンも初めて見た人も楽しませてくれる、色褪せない魅力を持った作品でした。
あと、大雨のなか率先して椅子の積み込みを手伝うマートン卿がかっこよくて惚れた。やっぱり越えられない嵐はないんですよね。
ちなみに劇場版はいふりの特典は岬明乃ちゃんでした。
明乃の可愛さ完全に思い出した。
もう一回見たい。
(おわり)
*1:イギリスの植民地だったアイルランドは20世紀以降独立の動きが活発になっており、1919年にはアイルランド独立戦争が勃発した。